思いっきり反省してみよう

曾子曰、吾日三省吾身、為人謀而忠乎、与朋友交言而不信乎、伝不習乎。

あるお坊様との出会い

さああ、どうすればいいものか。

 

私は9年前に福岡大学医学部循環器内科の医師に非常に重要な仕事の話があるからと言われ彼の自宅に呼ばれます。接点はこの医師の妻と私の妻が中学時代に親友であったことにあります。2008年6月27日に彼の娘の誕生会が自宅で開かれ、私の妻はこの誕生会に招待されます。そこで彼は、自分は英語ができなくて困っている、という発言をしていたので、私の妻が、英語だったら夫が手助けすることができるかも、とぽつりと言います。

 

その一言で人生の歯車が狂ってしまいました。

 

彼は目の色を変えて、大事な話があるから翌週土曜日に私を自宅に連れてくるよう妻に強く言ってきます。

 

言われるがままに翌週の土曜日、2008年7月5日に福大医師宅を訪れると、彼はすぐさま仕事の話を始めます。

「うちの医局では論文校正に使える予算が3千万円あり、自分はこの予算の決裁を教授から実質的に任されている。いまは製薬会社に論文一本20万円でこの仕事を頼んでいるが、見返りにその製薬会社から薬を購入させられて非常に困っている。英語校正のいくらでもあるので、会社を直ちに設立して、この仕事をやってもらえないのだろうか。」

教授とは、当時循環器内科の教授を務めていた朔啓次郎医師のことです。

 

しかし、突然「会社を立ち上げてくれ」と頼まれて、すぐ「はい」と答える人もいないでしょう。私がためらうと、彼はギブ・アンド・テイクと言う言葉を何度も使い、すぐ法人を作るよう言ってきます。彼のギブとは、(1) この仕事を全面的に私に任せる、(2) 論文1本あたりの英語校正を20万円でお願いする、(3) 論文がリジェクトされても支払いをする、の3点です。彼が望むテイクとはこの時点では、すぐに仕事を依頼したいので、(1) できるだけ早く法人を設立してくれ、(2) 会社を作ったらすぐに連絡してくれ、の2点のみでした。なぜ法人でないと仕事を頼めないのか彼に尋ねると、個人相手だと1回5万円までしか予算を使えないから、とのことでした。

会社を立ち上げてもらったら仕事をばんばん私に回す。何も心配することはない。仕事はいくらでもあるんだから、自分は予算を動かせる力があるから、会社設立に伴うリスクを心配する必要はまったくない。

彼は繰り返しこう言って、わたしに会社を立ち上げるよう迫ってきます。

 

 

「英語校正が論文一本につき20万円。この仕事が数多くあり、使える予算は3千万円ある」 

「なんておいしい仕事なんだ。」当時、わたしは転職を考えていた事もあり、この話に乗ってしまいました。医学論文はページ数も少ないので1週間あれば簡単に論文一本の英語校正をすることができます。4本で月80万円。2本でも月40万円の定期収入です。3千万円の予算をすべて私に回すことはなくても、その10分の1でも300万円です。5分の1で600万円。これでこれだけの仕事で生活ができます。とは言うものの医学論文の英語校正をやった経験はないので、「こんな大仕事を簡単に私に頼んでいいのか」と彼に繰り返し尋ねると、彼の妻が笑いながらしゃしゃり出てきました。

「できるかどうかは、やってもらわないとわからないじゃない。」

それを聞いて、会社を立ち上げる決心をしました。仕事がうまくいかなければ何本か英語校正をした後に、また会社を閉じればよい。5本で100万円だからそこでやめても特にこちらが損害を被ることはないだろう。そう考えた私はすぐに会社設立の準備を始め、翌月に会社を設立します。

 

 

そして何が起こったのか。

 

 

仕事の依頼はゼロでした。

 

 

見事にだまされました。教授から3000万円の予算を任されているというのがウソであれば、論文英語校正の仕事が大量にあるというのもウソ話でした。「大量にはなくても数本くらいはあるだろう」というわけでもありません。医局員のひとりにすぎない彼がほかの医局員が書いた論文の校正をどこに頼むか決める権限はありません。「数本はなくても一本くらいはあるだろう」というわけでもありません。彼は自分が書いた論文の校正については私に頼むのが筋と思うのですが、それもありませんでした。なぜかというと彼は学術論文を書けなかったからです。学術論文を執筆する能力に欠けていたからです。彼の業績をチェックすると査読誌にファーストオーサーで数本発表していることが確認できます。それで論文を書く能力がないというのはどういうことなのか。

 

ヒントは、①名目上英語校正依頼として論文一本に付き「製薬会社」に20万円のお金を支払い、かつ見返りにその製薬会社の薬を大量に購入し、②彼が発表している査読論文はすべてある薬剤の効果を高く謳った内容である、ということです。
※ついでに言うと、彼は博士論文でも同じ薬剤の高い効果を主張しています。

 

行政書士に頼んで会社設立の登記にかかった費用は27万円。会社設立と医学論文校正の準備にかけた手間と費用もすべて無駄になってしまいました。準備にかけた時間を時給2000円で換算し、その他雑費の費用も加えると80万円は使ったことになります。

 

しかし使ったお金が返ってくることについてはわりと楽観的に考えていました。彼は自分の妻の人間関係を利用して会社を作ってくれと言ってきたのですから、うまく収拾を図らないと、彼の妻のメンツは完全につぶれます。また、朔啓次郎教授から3000万円の金を任されていると一般市民に嘘を言い、会社を作らせたことが公になれば教授にも迷惑がかかるでしょう。

私はこの2人とつきあいはないのでこの事件を公にして彼らにどういう被害があっても知ったことではありません。だから私がすることは、彼が私らに対してしたことをちゃんと謝罪をし、費用負担をしなければ、あなたが大事にしているであろうあなたの妻と教授にも迷惑がかかりますよ、ということをそれとなく伝えればよいだけのことです。全額返還は無理でもその半分の40万円程度は支払うだろうと思っていました。

 

結論から言うと、このトマス・シェリング張りのthreat strategyはうまくいきませんでした。彼が合理的アクターであれば収束点が見つかったはずですが、「ちゃんと責任を果たさないとあなたの妻や教授に迷惑がかかりますよ」というtacit messageは彼には伝わりませんでした。「製薬会社にお金を払って論文を書かせていることを公表しますよ」というメッセージも伝わらなかったようです。これらのメッセージをexplicitにして送ったことはありません。「金を払わなければ~するぞ」というのは脅迫行為に該当するので、私の倫理観の規準からすればやるべきことではありません。彼が私の「意図」を把握してもらえればいいだけのことですからそれとなく私の意図を伝えればいいだけのことでした。しかしこれがうまくいきませんでした。彼には私のシグナルがノイズにしか聞こえなかったようで、「やばい、ちゃんと謝罪しないと」と彼が思うようにはもっていけませんでした。

 

そうなるとこちらはどうしようもありません。「~しなければ…するぞ」というthreatは、こちら側が「しない」ことでしか強制効果は発揮できません。「また会ってくれないと、あなたのヌード写真をネットにばらまくぞ」という元彼のthreatは、「彼と会うこと」と「ネットに自分の写真がばらまかれること」という2つのネガティブを天秤で測ってどちらかの選択肢をとることを強要しますが、写真がばらまかれた後では彼女が彼と会うメリットはまったくなくなります。同様に私も、この一件を公にしないという選択肢をとることでのみ使ったお金が返ってくる可能性が出てくるのであり、公にすればこの可能性はゼロになります。

 

では、なぜ今回、この事件の詳細を語ることにしたのか。それはあるお坊様との出会いにあります。

─ 妻の親友の夫にまんまと騙され、その彼から謝罪は一切なし。

─ 「どういうことか」と私の妻が彼に電話をかけ説明を求めると、「そんな簡単に仕事を与えられると思うな」と罵声を浴びせられたこと。

─ 私の妻がもりたかに私も含めて3人で話をしたいからと電話をかけると、「今日はエステの予約があるから無理だ」と言われて、その後一切連絡しなくなったこと。
※私は妻との会話で、彼女のことを「もりたか」と呼んでいました。その理由は後で述べます。

─ 彼のオフィスに請求書を送ったところ、みらい法律事務所というところから、彼の家族に接触したら訴えるという通知が送られてきたこと。

─ 私が福岡大学に相談に行き、朔啓次郎教授との面会の約束をとりつけるようお願いすると、その翌日にみらい法律事務所というところから電話がかかり、「また大学に行ったら刑事告発するぞ」と脅されたこと。

─ 当時福岡大学学長であった衛藤卓也氏に手紙を送ると、何の聞き取り調査もすることもなく、その2週間後に同じ法律事務所から民事で訴えるぞという通知が送られてきたこと。

─ 当時福岡大学医学部長であった黒木政秀氏に面会し、彼の私の妻に対する行為はハラスメントであり、また製薬会社に20万円の金を払い論文執筆を手伝わせていることを話しますが、「だから何なんだ」という態度を取られ逆切れされたこと。

─ 私の妻が彼から暴言を吐かれ、うつ病パニック障害が再発したため、当時ハラスメント委員会のメンバーであった人文学部田村隆一教授に相談に行くと、「これはパワハラにあたらない。ハラスメント防止対策委員会に申し出をしても無駄だ」と言われたこと。
※ちなみにこれらの会話はすべてICレコーダーに録音しています。相手の許諾はとっていませんが。

 

要するに、一般市民が福岡大学の教職員から虚偽の仕事をもちかけられ金銭的被害を受けても、福岡大学は何ら対応をとることはないというわけです。

 

この結末に関していろんな気持ちが交錯しました。気持ちの整理がずっとついていませんでした。こんなバカな話に飛びついた自分が情けないという気持ちと一言も謝罪しない関係者たちに対して怒り。ウソの仕事をもちかけた福大医師よりも、何ら責任を感じない彼の妻と上司の朔医師に対する憤りの方が強くありました。逆に福大の教員が研究費を不正流用して論文を代筆させても何も咎められないことについては特に気になりませんでした。アカデミックのモラルといったものについてはアカデミックの外にいる私にはどうでもよいことです。

 

とにかくこの事件の事後処理が何もできないことで心の中がもやっとした気持ちがおさまらない。そのため昨年9月に心を浄化させようと思い、北九州にある寺院が行っている滝行に参加しました。そして滝行を終えた後、その寺院の若住職の方と軽い話をすると、意気投合し、夜に一緒にお酒を飲むことになりました。

 

これが本当によかったです。

 

その後も数度、若住職と会い彼と話をすることで、心のわだかまりがなくなりました。大げさに言うと「救われた」ということになるのでしょうが、もっと軽い「気持ちがすっきりした」という感じです。不完全な人に対して憤ることなく、自分の過ち、自分の弱さに目を向け、自分の至らなさを知り、受け入れ、必要とあれば直していく。それを自分よりはるかに若い住職から習いました。

 

相談会はすでに終了しましたが、この素晴らしい出来事を反芻したいのでもう一度過去の記憶を思い起こしたいと思います。

 

始まりは2007年3月。妻が天神に一人で買い物に行ったその日、彼女は家に戻ると興奮気味に私に話しかけてきました。

「天神で中学の頃の友人にばったり会ったのよ。〇〇の話をしたこと覚えていない?」

「不倫の人?」

「そうそう。」

「あれっ? 森高千里が結婚式に来たという人じゃなかった?」

「そうそうよく覚えているわね。」

 

この偶然の出会いがなければ、その後の人生もいろいろ変わっていたでしょう。私の妻の中学の頃の親友は、森高千里の恩人です。

森高千里のデビューのきっかけとなったのは、
1986年に開催されたポカリスエット・イメージガールコンテスト。


友達に誘われ遊び半分で応募したものの、とんとん拍子でグランプリを獲得してしまい、
ポカリスエットのCMと映画出演が決定してしまいました。

この森高千里ポカリスエット・イメコンにいっしょに応募しないかと誘ったのが福大医師の妻です。2人は熊本市中央区にある九州女学院(現「九州ルーテル学院」)の同級生でした。応募を誘った医師妻は書類審査で落ちますが、森高はグランプリを獲得します。その後の大活躍は皆さんのご存知の通りです。

(続き)